「それは大いにありますね」
宇宙はついさっきも自分の目で見た映像を思い出しながら言う。きゅっと左目の端だけをしかめるという癖をしながら、
「さっきも徹夜した教授に使われて徹夜して眠いと言うのに、僕に欠伸する暇は科学者にはないと怒鳴り散らしたんですよ。
数分後に事務の女の人がお茶を淹れてきたら、まるでホストみたいな笑顔を返して礼を言って、茶碗は後で返しに行かせますからゆっくり休んでいてくださいなんて言うんです」
「それはまあ…」
数分後に事務の女の人がお茶を淹れてきたら、まるでホストみたいな笑顔を返して礼を言って、茶碗は後で返しに行かせますからゆっくり休んでいてくださいなんて言うんです」
「それはまあ…」
男の適当な相槌を聞きながら、るいがもしかしてレズビアンなのではないかといわれてるのも致し方ないと宇宙は思う。
しかしそれはまったくない。世の教授の何十倍も忙しいであろう自発的な研究への没頭は異常な病のようでもあり、だるそうな疲れはもっぱら適当な男で済ましているらしいことは耳に入っている。彼女の眼差しと態度は、気難しい老獪な研究者そのままだ。
宇宙はそこには憎悪も反感もなかったが、なんとも尊敬できない部分を感じていた。
「でも仕方がないですよ。るいはヒガシバの血が濃い」
「は?」
「まあ御存知ではないでしょうねえ。今説明しますよ。ところで君は遺伝子の研究をしているのですか。それとも原子の研究を―?」
宇宙はそこには憎悪も反感もなかったが、なんとも尊敬できない部分を感じていた。
「でも仕方がないですよ。るいはヒガシバの血が濃い」
「は?」
「まあ御存知ではないでしょうねえ。今説明しますよ。ところで君は遺伝子の研究をしているのですか。それとも原子の研究を―?」
もったいをつけるように自分の言葉を流し、男は流れるような口調で言った。
宇宙はいささか警戒しそうにはなったが、別段おかしな話題でもないので素直に「原子の研究です」と答えた。そう答えると自分の言葉に誇りと他の研究者への見下しがこぼれ、つい棘のある語調になって続ける。
宇宙はいささか警戒しそうにはなったが、別段おかしな話題でもないので素直に「原子の研究です」と答えた。そう答えると自分の言葉に誇りと他の研究者への見下しがこぼれ、つい棘のある語調になって続ける。
「遺伝子なんてものも結局は原子で、人間は原子のボールがたくさんつまったプレイルームで妄想してる子供みたいなもんです。僕も貴方も結局は原子で、原子レベルでこの世界を見ればこの空気も壁も、まったく同じに見える」
「…成程。若いですなあ」
「…成程。若いですなあ」
男は口調ばかりは茶化すように言ったが、目は熱っぽく研究を語った宇宙を一種鑑賞するように眺め、
さっきまでの眠気を窺わせない颯爽とした動きで立ち上がった。
そうすると177センチある宇宙よりも高い痩身でありぎくりとしたが、男の言語も顔立ちもきちんと日本人的ではある。
さっきまでの眠気を窺わせない颯爽とした動きで立ち上がった。
そうすると177センチある宇宙よりも高い痩身でありぎくりとしたが、男の言語も顔立ちもきちんと日本人的ではある。