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Channel: daminn
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おかしな趣味だとは知らなかったわ。なんちゃって。

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 当然と『男の一人』と言われると、暴力団のお偉方が拳銃自殺した際に拳銃の名前を平然と読み上げたラジオ放送のように突っ込みどころがある。本来拳銃は日本国では持つと違法であり、男の一人と言うよりは二人以内にして比較級にして欲しいところだ。

 要一郎は自業自得と言う言葉を口に仕掛けるがぐっと飲み込み、喉を引きつらせるようにして淡々とした表情を保った。

「そうですか」
「最初はいつものカモネギ料理だったんだけど予想以上にエゲツナイ男で酷い目に遭ったわ。運が悪いみたい。愛のある拘束でもなくって、もうどうしようもないくらい怖い男なんだもの」
「警察に言いましょう」
「駄目よ。恐喝されたもの。警察に言ったらこんなものでは済まさないって」

 奇妙に落ち着きを取り戻して冷ややかに言うマリイの様子は、敵を分析する表情で諦めている気配はない。彼女は何かしら算段を脳裏で巡らせているらしいと要一郎は思う。
 その幼いまでの大きな瞳にはさっとよぎる怒りがたゆっておりのを見て、変わり身の早さに少々呆れたものの、要一郎は話題を戻すように「やはり警察でしょう」と静かに言った。

「警察に脅されれば大抵はカタがつくんですよ。やくざな連中の敵は警察です」
「そいつの母親が警察関連の娘なんですけれども、それって通用するかしら」
「…誰なんですか、その男。ひょっとして中華街で嫉妬させたがっていたのってその男ではないんですよね?」

 要一郎がいい加減忌々しげな視線になったのを見てもマリイが反省するところはないらしく、くすりと涙の気配が残る眼差しをしならせた。

「その男よ。はっきり言うと今も私を監視してる状態だから、迎えに来ようが通報しようが、まさしく時間の問題だわ。あるいは電話してきて、酷い顔だから化粧を直してから戻って来いって言うかも知れないわね」
「何で縁を切れないんですか―」
「お金だってば」

 要一郎は実に適当な答えを聞いて遠慮なく舌打ちし、

「俺に嘘を吐くなんて何様のつもりですか。俺とマリイさんの関係でそんな薄っぺらいものがあるとは知りませんでしたが、今知れて幸運でしたね。今すぐ出て行ってもらってもいいですか」
「何言うのよ。本当にお金よ」
「貴女がお金に不自由しますか? 父親から裕福な生活をさせてもらって、まだ男から金をもらって。一人くらい縁を切ってももう一人新しいのを用意すれば済む」

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